ショッピングカート

:::Short Story::: Story for autumn 2021

:::Short Story:::  Story for autumn 2021

Genie Punchへのショートストーリーです。

ニューカマーの作家さんにGenie Punchのランジェリーにあったショートストーリーを寄稿してもらっています。

今回は匿名の作家さんに一つショートストーリーをいただきました。ありがとうございます。

------------------------------

CASHMERE BLANKET AND HONEY CANDLE

カシミアブランケットとハニーキャンドル

 

 

秋が近づいているのに。

ため息が出る。

昨日久しぶりに友達とカフェでホットラテを頼んでおしゃべりしていた。「彼氏できた?」「雰囲気変わったね」友達はよくしゃべる。何も頭に入ってこない。実はおととい彼氏に別れを告げてしまったのだ。それも突発的に。

別に何かあったわけじゃない。浮気したわけでもされたわけでも。ただ飽きてしまったのだ、この状況に。毎日繰り返される同じ日常に飽きてしまった。

「逆だよ、別れたの」というと友達は「もったいない、なんで?」とずっと理由を聞いてくる。「でも辛いときだからちょうどよかったかもね、私が手作りしたキャンドルあげる、蜂蜜の香りがするんだよ。すごいでしょ」「ありがとう、使うね」

適当にかわして家に帰る。

彼も荷物をまとめて出て行ってしまったこの部屋で自分でしてしまったこととはいえ結構辛い。

パリ留学から帰国したばかりの彼は住むところを探すまでの間、私のところに転がり込んでいた。夜型の彼はいつもキッチンで何か煮込んだり、色々料理を作っていた。私はいつもその匂いにつられて彼のそばで原稿をまとめたりして、彼のそばにいると早く亡くなってしまった母を感じてしまうから、安心してしまった。ライターじゃなくて小説を出したい、本当は、そんな自分でも気づかなかった本音も彼がキッチンで料理する間におしゃべりしている中で引き出してくれた。そうか私は本当は小説がかきたかったんだ、って。

彼がいない家のキッチンは彼の料理道具が全部片付けられ元の殺風景なキッチンに戻ってしまった。

「寂しいってこういうことだったかも」

つい口に出して言ってしまう。彼といた幸福な時間は自分で壊したのだとやっと自覚する。

でも。

ベランダに出て、煙草に火をつける。

煙草が嫌いな彼の前では吸えなかった我慢もしなくていい。

一本ゆっくり吸うと、一本では足りなくなってしまったし外はいつの間にか本格的に秋の気温だったからブランケットを取ろうと思って部屋に戻った。

ブランケットを取って、思いついて彼が贅沢な料理酒と呼んでいたバーボンをグラスに入れた。Genie punchという最近見つけたオンラインのショップで買ったフレグランスミストのカシミアという香りをブランケットに振りかける。

もう一度ベランダに戻り、友達からカフェでもらった蜂蜜のキャンドルを灯してその火で煙草にも火をつけ一服した。彼が悪かったのかわたしが悪かったのかそういうことじゃない、二人とも一度離れる時間が必要だったのかも、そう思っているとチャイムがなった。

「ごめん」

ドアを開けると彼が立っていた。

「別れるのをやめようと思って。」

「そうだね、お腹空いたし。」

そうやって仲直りしたのも二人に必要なことだったのかもしれない。*(G)

古い投稿順 新しい投稿順